配偶者居住権とは⁇
- 2022年5月27日お知らせ
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残された配偶者が被相続人の所有する建物(夫婦で共有する建物でもかまいません。)に居住していた場合で,一定の要件を充たすときに,被相続人が亡くなった後も,配偶者が,賃料の負担なくその建物に住み続けることができる権利です。
残された配偶者は,被相続人の遺言や,相続人間の話合い(遺産分割協議)等によって,配偶者居住権を取得することができます。
配偶者居住権は,第三者に譲渡したり,所有者に無断で建物を賃貸したりすることはできませんが,その分,建物の所有権を取得するよりも低い価額で居住権を確保することができるので,遺言や遺産分割の際の選択肢の一つとして,配偶者が,配偶者居住権を取得することによって,預貯金等のその他の遺産をより多く取得することができるというメリットがあります。◎配偶者居住権の具体例
相続人が妻及び子,遺産が自宅(2,000万円)及び預貯金(3,000万円)だった場合
妻と子の相続分 = 1:1(妻 2,500万円 子 2,500万円)【配偶者居住権制定前】
夫の遺産 妻(法定相続分1/2) 子(法定相続分1/2)自宅 2,000万円 自宅 2,000万円
預貯金3,000万円 預貯金 500万円 預貯金2,500万円
【制定後】
夫の遺産 妻(法定相続分1/2) 子(法定相続分1/2)自宅 2,000万円 居住権 1,000万円 負担付き所有権 1,000万円
預貯金3,000万円 預貯金 1,500万円 預貯金 1,500万円
配偶者居住権 の成立要件
配偶者居住権が成立するためには,以下1~3の要件をすべて満たす必要があります。
1.残された配偶者が,亡くなった人の法律上の配偶者であること
2.配偶者が,亡くなった人が所有していた建物に,亡くなったときに居住していたこと
3.①遺産分割,②遺贈,③死因贈与,④家庭裁判所の審判のいずれかにより配偶者居住権を取得したこと
(①は相続人の間での話合い,②③は配偶者居住権に関する遺言又は死因贈与契約書がある場合,④は相続人の間で①遺産分割の話合いが整わない場合です。)Q 配偶者居住権が存続している間,配偶者と居住建物の所有者には,どのような法律関係が生じますか
A 配偶者居住権が存続している間の,配偶者居住権者と居住建物の所有者との主な法律関係は,次のとおりです。
(1) 居住建物の使用等について
配偶者居住権者は,無償で居住建物に住み続けることができますが,これまでと異なる用法で建物を使用することはできないほか(例えば,建物の所有者に無断で賃貸することはできません。),建物の使用に当たっては,建物を借りて住んでいる場合と同様の注意を払う必要があります。
(2) 建物の修繕について
居住建物の修繕は,配偶者がその費用負担で行うこととされています。建物の所有者は,配偶者が相当の期間内に必要な修繕をしないときに自ら修繕をすることができます。
(3) 建物の増改築について
配偶者は,建物の所有者の承諾がなければ,居住建物の増改築をすることはできません。
(4) 建物の固定資産税について
建物の固定資産税は,建物の所有者が納税義務者とされているため,配偶者居住権が設定されている場合であっても,所有者がこれを納税しなければなりません。もっとも,配偶者は,建物の通常の必要費を負担することとされているので,建物の所有者は,固定資産税を納付した場合には,その分を配偶者に対して請求することができます。Q わたしは配偶者居住権を取得しましたが,その後,老人ホーム等に入居することになりました。いらなくなった配偶者居住権を第三者に売って,介護施設に入るための資金を得たいと考えているのですが,どのようにしたらよいですか
A 配偶者居住権は配偶者の居住を目的とする権利ですので,第三者に配偶者居住権を譲り渡すことはできません。もっとも,あなたが,配偶者居住権を放棄することを条件に,これによって利益を受ける建物の所有者から金銭の支払を受けることは可能です。
また,あなたは,建物の所有者の承諾を得れば,第三者に居住建物の使用又は収益をさせることができますので,例えば,使用しなくなった建物を第三者に賃貸することで,賃料収入を得て,介護施設に入るための資金を確保することもできます。Q わたしが死んだときに備えて,配偶者のために配偶者居住権を設定したいと考えているのですが,どのようにすればよいですか
A あなたの所有する建物に配偶者が居住している場合は,遺言で配偶者に配偶者居住権を遺贈することで,配偶者居住権を設定することができます。
このとき,あなたと配偶者が婚姻してから20年以上の夫婦である場合は,配偶者居住権を設定しても,原則として遺産分割で配偶者の取り分が減らされることはありません(注)。
なお,配偶者居住権に関する改正法は,令和2年4月1日に施行されますが,この日より前にされた遺言で配偶者居住権を設定することはできませんので,注意をしてください。
(注)婚姻期間が20年以上の夫婦間における居住用不動産の贈与等に関する優遇措置について
通常,被相続人が意思表示をしていない限り,被相続人が配偶者に財産を生前贈与又は遺贈をした場合は,遺産分割において,配偶者は既に相続財産の一部の先渡しを受けたものとみなされます。しかしながら,婚姻期間が20年以上の夫婦の間でされた居住用の不動産の生前贈与又は遺贈については,被相続人は,残された配偶者の老後の生活保障を厚くするつもりで行われたものと推定されますので,被相続人が異なる意思表示をしていない限り,相続財産の先渡しとして取り扱われません(当該財産は,相続財産には含めない。)。Q わたしの配偶者が,遺言をしないまま死亡しました。残されたわたしとしては,配偶者居住権を取得したいと考えているのですが,どのようにすればよいですか
A 被相続人が,遺言によって所有する建物に配偶者居住権を設定せずに亡くなった場合でも,あなたは,他の相続人と遺産分割の協議をすることで配偶者居住権を取得することができます。
遺産分割の協議が調わないときは,家庭裁判所に遺産分割の審判の申立てをすることによって,あなたが配偶者居住権を取得することができる場合があります。